「これって本当に利用者さんのためなのだろうか?」
介護の仕事を長く続けていると、そんな疑問を抱く瞬間があります。
もちろん、有料老人ホームで働く職員は利用者さんのために一生懸命頑張っています。しかし、人手不足や業務効率、施設のルールを優先するあまり、「利用者さんが本当に望む生活」が後回しになってしまうことも少なくありません。
今回は、現場で働く介護職だからこそ感じる「当たり前になっている介護の矛盾」を、利用者さんの視点から考えてみたいと思います。
1. なぜ毎日エレベーターで食堂まで行かなければならないのか?
多くの有料老人ホームでは、食事の時間になると利用者さん全員が食堂へ向かいます。
しかし、これは本当に全員にとって最善なのでしょうか。
足腰が弱くなった方にとって、食堂までの移動は大きな負担です。
エレベーターを待ち、車椅子を押され、多くの人と一緒に食堂へ向かうだけで疲れてしまう方もいます。
「今日は部屋でゆっくり食べたい。」
そう思う日があっても不思議ではありません。
もちろん、食堂で食事をすることには、孤立を防いだり生活リズムを整えたりするメリットがあります。
だからこそ大切なのは、「全員が食堂」ではなく、「本人が選べる」ことではないでしょうか。
2. 時間が決まった生活は、本当にその人らしい生活なのか
朝は7時。
昼は12時。
夕食は18時。
施設では生活時間が決められています。
もちろん、食事の提供や職員配置を考えれば必要な面もあります。
しかし、自宅で暮らしていた頃は「今日は少し寝坊したい」「お腹が空いたら食べたい」と自由に生活していたはずです。
施設に入った途端、その自由がなくなってしまう。
これは本人にとって大きなストレスになることがあります。
3. 「転倒させない介護」が「歩けなくする介護」になっていないか
転倒事故は絶対に避けたい。
その思いは職員も家族も同じです。
ですが、転倒を恐れるあまり、
「危ないから座っていてください。」
「車椅子で移動しましょう。」
そんな場面が増えると、歩く力はどんどん失われていきます。
安全はもちろん大切です。
しかし、安全だけを優先した結果、自立する力まで奪ってしまっていないか、一度立ち止まって考える必要があります。
4. レクリエーションは「参加」ではなく「強制」になっていないか
カラオケ。
体操。
塗り絵。
ゲーム。
楽しみにしている利用者さんもいます。
一方で、「今日は静かに本を読みたい」という方もいます。
それなのに、「みんなでやりますよ」と半ば強制的に参加する場面も見られます。
楽しみ方は人それぞれです。
参加する自由だけでなく、参加しない自由も尊重されるべきではないでしょうか。
5. 職員は忙しすぎて「話を聞く時間」がない
利用者さんが本当に求めているもの。
それは高級な設備でも豪華な食事でもなく、「誰かと話す時間」であることも少なくありません。
しかし現場では、
食事介助。
排泄介助。
記録。
コール対応。
次から次へと業務が押し寄せます。
「あとで来ますね。」
その”あとで”が来ない日もあります。
介護は身体介助だけではありません。
心を支える時間も、同じくらい大切な介護です。
6. 家族には見えない「日常」がある
面会の時間だけを見ると、利用者さんは穏やかに過ごしているように見えるかもしれません。
しかし実際には、
「今日は部屋から出たくない。」
「誰とも話したくない。」
そんな日もあります。
家族が悪いわけでも、職員が悪いわけでもありません。
だからこそ、日常の小さな変化を家族と共有し、一緒に考えていく姿勢が大切です。
7. 「施設の都合」ではなく「利用者の人生」を中心に考えたい
介護施設は、効率よく運営しなければ成り立ちません。
ですが、利用者さんにとって施設は「職場」ではなく「家」です。
家であれば、
好きな時間に起きたい。
好きな場所で食事をしたい。
今日は一人で過ごしたい。
そんな希望があって当然です。
介護とは、生活を支える仕事。
生活とは、その人らしく生きることです。
施設のルールに利用者さんを合わせるのではなく、できる限り利用者さんに合わせた介護を目指すことが、本来の介護なのではないでしょうか。
まとめ
私は有料老人ホームそのものを否定したいわけではありません。
実際に、多くの職員が利用者さんのために悩み、努力しながら働いています。
それでも、「昔からこうだから」「施設のルールだから」と続けていることの中には、見直せるものがあるはずです。
介護の主役は、職員でも施設でもありません。
人生を歩んできた利用者さん一人ひとりです。
その方が「ここで暮らせて良かった」と思える毎日をつくるために、私たち介護職も、施設も、家族も、「当たり前」を見直す勇気を持ちたいものです。

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